手袋は冬場限定であるし、最近は今ひとつ影が薄い。しかし、以前見かけた、手袋をしている紳士の格好よさをいまだに忘れられないので、紹介したい。それは、こんな状況だった。冬のパジに取材に行ったとき、ホテルのフロントで初老の男性がカード決済かなにかでサインをしていたのに出くわした。その立ち振る舞いを見た瞬間、私の視線は彼に釘づけになってしまった。なぜかというと、その人はすぐに出発するのであろうか、バルマカーン(ステンカラー)コートを着、ソフト帽をかぶったままでサインをしていたのであるが、私が気になったのは別のところだ。それは、彼の手元だった。彼は手袋をしたまま、ペンを取り、さらりと署名するとさっとホテルをあとにしたのだ。その立ち振る舞いの鮮やかなこと。とりわけ手袋をしたままのサインはお見事というほかはなかった。帰国した私は、手袋専門店に取材を申し込み、我々日本人の手袋の買い方と西欧の買い方との根本的な違いを教えてもらった。それによると、日本人の手袋の買い方は、S・M・Lのうちのどれかを選ぶ、というものだという。実は、手袋にもフィッティングがある。靴のフィッターと同じように手袋のフィッターという職業も専門店には存在するのだ。肝心なのは、今まで自分がジャストだと思っていたサイズの感覚をあらためることだ。その店で試着した感想をいえば、「こんなにきついのを馴染ませながら使っていくのか!」だった。手の感覚は繊細なので、きつい、と感じるとしばらくは違和感が残るが、革は伸びるもの、という前提で試着する意識が必要だ。専門店ではストレッチャーといって、使う前に革を適正に伸ばす器具を使用してフィッティングしてくれるところがあるが、そうでない場合は少々きつめ、と感じるくらいでちょうどいい。ジャストサイズの上質の革手袋は、コート姿を完成させるフィニッシュワークだ。手袋をしていないコート姿ほど、うすら寒いものはない。防寒に不可欠かどうかは別にして、欠落感を周囲に与える。先ほどのパリでの出来事のように、演出的な部分も見逃せない。できるだけ薄手でスタイリッシュな手袋というのは、見た目に格好いいだけでなく、指先の自由度をかなり確保できる。小銭入れからコインを取り出すとき、携帯でメールを打つときなど手袋をしたままそれができたら、相当素敵だ(サインには劣るが)。手袋はもはや寒いから身につけるのではない。粋だから身につけるのである。すっかり手に馴染んだ手袋をしている人を見かけると、流行に気を遣っている人よりも、ずっと装熟度が高いと思う。
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