ことほどさように、日本の音楽業界においてIチューンズ・ストアは疎まれた存在なのです。それには、いろいろな理由があります。たとえば、Iチューンズ・ストアにおいて楽曲の価格決定権がレコード会社側に与えられない、レコード会社が標準としているDRM(DigitalRighsManagement)と比較してIチューンズ・ストアが採用している著作権管理システムが緩すぎる、といったことが取りざたされています。確かに、それらの理由は真実だと思います。しかし実は、そのような枝葉末節な議論以前に、Iチューンズ・ストアを疎ましく思う根本的な理由があるのです。それは、自分たちが育ててきた日本の音楽業界を、外から来た企業に荒らされたくないという心情です。レコード業界は過去に大きな過ちを犯しました(レコード会社側から見て)。それは貸しレコード店の合法化です。80年代に登場した貸しレコード業は、レコード業界とは無縁の企業からの参入が主でした。貸しレコードがレコード売上を減少させるとの危機感を抱いた業界は、日本レヲード協会などが旗振り役となって、貸しレコード撲滅キャンペーンを行うなど、この新規ビジネスをつぶしにかかりました。レコード業界をボディーブローのように痛めつけていった「貸しレコード」の存在しかし、1986年に著作権使用料が制定されるなどして、貸しレコード側から音楽業界に利益の一部が分配される仕組みが整ったことで、この問題は決着がつきました。そして、各地の貸しレコード店の繁栄で一時的にはCDの売上も伸びたのです。しかし、その存在は、その後の音楽業界をボディーブローのようにジワジワと痛めつけていったのです。とくにデジタル音楽機器の低価格化と普及は、「CDは貸しレコードを借りて録音」という音楽の聴取スタイルを若者の間に定着させる結果となり、「貸しレコードのせいでCDが売れない」と名指しで非難する業界関係者も多くいます。貸しレコードとCD売上減少との間に明確な統計的因果関係があるわけではありませんが、レコード関係者の中には、「貸しレコードを認めたことは最大の不覚」という認識を持つ人が多くいることは事実です。
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